広場の方角からガランガランと朝を告げる鐘の音が響く。 その聞き慣れた鐘の音にミオがゆっくりと眠りから覚めた。 まだ重たい瞼をゆっくりと開けると、まず初めにレイの漆黒の瞳がこちらを見つめて柔らかく微笑んでいるのが視界に飛び込んできた。 「おはよう、ミオ」「おはよう」 お互い寝ぼけ眼のまま挨拶をして微笑み合う。 たったそれだけのことでこんなにも幸福感が胸を温かく満たしていく。 窓の外は洞窟都市の巨大シャンデリアが夜明けの黄金の光を放ち始めていた。 朝の眩さに目を顰めながらレイは窓の方を見やり、その黄金の輝きを眺める。 「夜明けの色ってミオの瞳の色と同じだよね」「そう、かな」「うん。ずっとそう思ってた」 ミオはずっと自分の瞳は黄昏の色だと思っていた。一日の終わり、沈みゆく陽の色だとそう思っていたのである。 だが、レイは真逆の一日の始まりの色だと言う。 黄昏の色は夜明けの色と同じ色をしているのだ。「この赤い髪も好き」「私は怜士さんのその黒い髪も目も好きだな。優しい夜の色みたいで」 ミオがそう言うとはにかみ合って二人は顔を寄せ合う。 これから自分はレイの嫁として彼とこの島で生きていくのだ。 今日も幽霊島いやユメノ島に、黄金に輝く夢のような一日が始まる。 終わり
「あっ! あんっ!」 パンパンとリズム良く肉と肉が打ち合う音とミオの嬌声が寝室中に響き渡る。ミオの花の筒はレイの雄の形だけをすっかり覚えてしまい、その熱塊をぴたりと呑み込んでいた。 ミオの白く細い二本の足を抱えながら、一定のリズムで腰を打ちつけていたレイがミオの顔をじっと見つめる。 「なに……?」「ね、ミオが上に乗って」「え……?」「だめ?」「駄目じゃないけど……」 突然のレイの頼みに戸惑いながらもミオは頷く。そのまま体勢を変えて、ベッドの上に仰向けになったレイの上に恐る恐るミオは跨った。 「んっ……」 恥じらいながらも自らレイの上に腰をゆっくりを降ろし、屹立した剛直を自身の花芯に受け入れる。 先程までその熱を受け入れていた秘部は愛蜜が零れんばかりに満ち、待っていたとばかりにズブズブと容易くレイを再度最奥まで呑み込んでしまう。 「ふぁあ……っ」 最奥までレイの熱塊を呑み込んでしまえば、ミオの背筋にぞくぞくと電撃のような快楽が走る。 ミオは慣れない動きながらも、ゆっくりと腰を動かして剛直を抜き差しする。最初は少しずつ慎重に、やがてギリギリと雁首限界まで引き抜き、自重で一気に奥まで貫く。 「はあんっ! あぁ……っ! あんっ!」 一気に花芯の最奥を突くのも気持ち良いが、引き抜く時に花襞全体をずるずると刺激されるのも気持ち良い。 うっとりと目を閉じ腰を浮かせてはまた落として、その体の奥でずんずんと響くような官能の波に甘い吐息を漏らし続ける。まるで淫らな娼婦のようにミオは腰を振る行為に熱中してしまう。「はうっ……んあっ……はぁぁ……ひゃんっ!」 突然レイの両手にの両の胸の蕾を摘まれ、ミオは悲鳴を上げた。果実のような蕾をクニクニと指の腹に押し潰され、カリカリと爪先で摘まれて思わず身を捩る。すると花芯の中に埋められた剛直が花襞を抉りミオは更に甘い悲鳴を上げてしまう。 「っ……締めすぎ」 身を捩った際にきゅうっと秘部に力を入れてしまったせいでレイが眉間に皺を寄せて呻く。どうやら花芯の中の剛直を強く締め過ぎてしまったらしい。 「気持ちいい?」「うん……」 問いかけに素直に頷くレイに、ミオの背筋にぞくぞくと電撃のような震えが走った。 (気持ち良いんだ……!) それは自分の行為が彼に快楽を与えた、悦ばせてあげ
その夜、レイの部屋にミオはいた。 どことなく緊張した面持ちのレイはベッドサイドに腰掛けている。そしてミオもまた緊張を隠せない様子でレイの隣にちょこんと腰掛けた。 お互いシャワーを浴びた後のバスローブ姿である。 この状態の男女がこれからやることなど一つしかない。 「なんか初めてじゃないのに緊張するな」「確かに……」 並び合ったまま笑うレイの言葉にミオはつられて小さく笑いながら頷く。頷いた視線の先には、昼にレイから贈られた婚約指輪が左手の薬指にピカピカと星のように銀色に光っていた。 想いは伝え合っていたが、今日ようやく皆の前で正式に婚約したのである。婚前交渉にはなるが、それも今更だ。 「ねえ、怜士さん、本当に私でいいの?」「何を今更?」「だって私、面倒くさいよ? 臆病だし、ずるいし、卑屈だし、変わり者だし」「頑張り屋で、真面目で、好奇心旺盛で可愛いしなあ」「真剣に聞いてるんだけど」「真剣に答えてますけど」 ぷうと頬を膨らませるミオの肩をやや強引にレイは抱いて引き寄せる。肩までの長い黒髪がミオの頬にかかった。「前も言ったけど、ミオがどんなに嫌がっても、もうオレは離さないから」 漆黒の瞳はまるで夜のように深い色でミオを見つめている。 ミオの黄昏色の瞳と黙ったまま見つめ合う。黄昏の色と夜の色が交錯し、そしてミオは一瞬だけその瞳を伏せた。 「……じゃあね、一つだけ約束して」「何?」「絶対一人にしないで、いなくならないで」 そう言ってミオは再びレイの顔を見つめる。懇願するようなその表情にレイは淡く微笑み頷く。 「うん、絶対。約束する」 レイのその言葉にミオはほっと安心したように微笑むと、彼の胸元に甘えるようにぼすんと顔を埋めた。 しばらくそのままお互いの体温を感じ合う。 やがて二人は互いにゆっくりと二人の輪郭になぞるように抱き合い、どちらともなく優しく口付ける。 「んっんふ……っ」 触れるだけの優しいキスは次第に深く激しさを増していった。 くちゅくちゅと互いの舌を絡ませ合い、吸い合う。 吐息を漏らし合いながら互いの唇を貪るように深く相手を求める。 レイの舌はミオの歯列をなぞり、呼吸ごと吸い尽くすように深く深く口付けた。 「ぷはっ……」 息苦しさから解放されてミオは大きく息を吐く。ハアハアと
突然、レイはミオの前に跪く。レイのいきなりの行動にミオが驚いていると、彼は指輪が入ったケースをミオの前に恭しく差し出した。「ミオ、俺と正式に結婚してください」 ヒャアッとミオより先にエクラが悲鳴を上げる。 それに遅れて固唾を呑んで見守っていた周りも突然の公開プロポーズにどよめいた。 そう。サプライズプロポーズである。 人前や友人達に囲まれた状態で断りにくい雰囲気にされ、プロポーズとしては最低の類に分類されるあの悪名高いサプライズプロポーズだ。 恐らくエクラのこのブーケも、いやアルマも示し合わせていたのだろう。このサプライズプロポーズのために仕組まれていたのだ。 だがしかし、そもそも最初に嫁として押し掛けてきたのはミオの方である。 なので驚きはしたが、ミオに断る理由はなかった。 「はい……喜んで」 はにかんでプロポーズを受け入れるミオの返事に周りが歓喜にどよめく。 歓声と共に大量の紙吹雪が舞う。 ほっとした面持ちで立ち上がったレイはミオの左手を取ると、その薬指に手にしていた指輪を嵌めた。 小さな宝石がついたシンプルな銀の指輪はミオの薬指に大きすぎず小さすぎずぴったりと嵌る。 「おめでとうございます。良かったですねレイ、一目惚れが叶って」「は!?」 ニコニコと二人の前に祝福の言葉を述べながら近付いてきたのはエルフの正装に身を包んだグリモワールである。 慌てるレイとは対照的に彼は笑みを浮かべたままミオに話しかけた。 「実は初めてミオさんの顔を見た後で、『わー可愛い!』って彼はすごく騒いでたんですよ。『あんな可愛い子が来るなんて聞いてないっ!』ってもう取り乱して床にゴロゴロ転がって」「ちっ違うっ、それは違う! いや違わないけど!」「どっちなの」 大慌てでグリモワールに訂正するレイにミオは呆れた面持ちで思わず突っ込む。 「……や……その…………はい……一目惚れ……です」 先のプロポーズの時よりも真っ赤な顔でレイは俯く。 まさか一目惚れだなんて、そんなの初めて知った。 ミオがレイの赤くなった顔をまじまじと眺める。 「止めて」 ミオに穴が空くほどじっと見つめられて、恥ずかしそうにぷいと顔を背けるレイの反応が新鮮だ。その反応の面白さに、悪戯っぽくにんまりと笑ったミオが回り込んでまだ彼の顔を覗き込もうと
フロード国の襲撃から早数ヶ月後経ったある日のことである。 万年曇天の幽霊島にしては珍しく青空が見える。 まるで神がこの日を祝福しているかのようだ。 いや、もしかしたら本当に神は今日と言う日を祝福しているのかも知れない。 なにせ今日は聖女エクラと魔族の王グランツの結婚式だ。聖女の晴れの舞台を神が祝福していても何の不思議もない。 島中が華やかで、賑やかな雰囲気で満たされている。 いつもはジャガイモ畑で緑一辺倒の地上でさえも、ささやかながら飾り付けをされていた。 島中がそんな幸せな空気の中、ミオは一人バタバタと島中を走り回っている。 エクラとグランツの結婚式ならば当然やらせてほしいと裏方のリーダーに立候補した彼女は、祭祀場やパーティー会場を東奔西走していた。 最近グリモワールとグランツが発明した通信魔法道具を腕にはめ、それで島のあちこちへと連絡をとりながらミオは結婚式の会場から倉庫へ向かう。 「ワインの数が足りないんです。持って行きたいけどそっちに台車ありますか? え? ない? 分かりました。ワインは一ケース用意しておいてください。 もしもし第二倉庫? 台車はそちらにあります? じゃあ今すぐに取りにいきます」 通信先の相手とそんなやり取りをしながらミオは倉庫に向かう。 この島に来た初日は迷子になっていたのが嘘のようだ。今ではまるで何十年も暮らしていたかのような慣れた足取りでミオは島を走る。 「おっとミオ、探したぜ」 忙しく走り回るミオを誰かが後ろから呼び止めた。ミオが足を止めて振り返ると、そこにはシックなパーティードレスに身を包んだアルマが立っている。 「アルマさん、どうしたの?」「あぁこれからブーケトスをやるから会場に来いってさ」 ブーケトスとは、レイの世界では有名な結婚式の儀式なのだそうだ。花嫁が花束を投げてそれをキャッチした未婚女性が次の花嫁になると言う言い伝えがあるらしい。 それを聞いたエクラが「面白そうだからそのブーケトスをやってみたい」と言い出したのである。 「いや私は別に……それに今忙しいし」 露骨に嫌な顔をするミオにアルマも苦笑いしてしまう。 レイがこの島に帰還した後からミオは親しい者に対して敬語を使うのを止めた。 その様子は貴族の女どころか女らしくもないが、どこか萎縮して遠慮がちだっ
そんな臆病なミオを見下ろしながらレイはきっぱりとこう告げた。「お前が諦めたとしても、オレはミオに手を差し伸ばし続けるよ」「!」「絶対、諦めない。オレはそうやって勇者になったんだから」 それは眩いくらいの勇者の輝きであった。 ミオが憧れ続けた勇者その人が、今ミオに救いの手を差し出している。 「私は……っ!」 変わり者だからと、愛されなかったからと逃げ続けていたのは他でもない自分自身だった。 変わりたい癖に、何かあったらすぐ諦めて逃げてしまうそんな弱い自分を、勇者レイ・シュタインは真っ直ぐに向き合ってくれている。 「来い、ミオ・エヴェーレン!」 それでも恐い。 涙を零し、呼吸を乱し、頭を振って身を捩っても逃げられないのは分かってる。 本当はもう大丈夫だととっくに分かっている。 レイは全て受け止めてくれると分かってるのだ。 でも恐い。 「私は……っでも、私は……っ!」 「頑張れミオ」 レイのその一言がきっかけだった。 だってその言葉は独りぼっちのミオがずっと自分に言い聞かせ続けてきた言葉だったから。 「私は……私……は、あなたと……怜士さんと、皆でこの島で暮らしたい……!」 みっともない嗚咽混じりの声でミオはそう叫んだ。 ようやく言えた。 自分自身の、そう他ならぬミオ自身の願いを、ちゃんと口にできたのである。 「ずっと一緒に生きたい、嫌われてもいい、その結果怜士さんを悲しませることになったとしても、怜士さんを離したくない。憎まれてもいい、いや、本当は嫌だ、私と一緒にいて、そばにいて、」 一度出てしまった言葉はとめどなく口から溢れて止まらない。嗚咽と共に気持ちを吐き出してぐしゃぐしゃのみっともない顔のままミオはレイにしがみ付くように抱き付いた。 ミオはずっと独りぼっちだった。だから独りぼっちでこれからも生きていけていた。生きていけたはずなのに、もう駄目になってしまった。 もうレイなしで生きていけない。彼のいない日々がこれほど辛いなんて想像も出来なかった。 縋り付いて泣き出すミオの華奢な体をレイがぎゅっと抱き締め返す。その腕も胸も温かい。 ミオが失いたくない、本当に大切な存在が今ここにある。 「うん。ありがとう。オレも同じ。ミオとこれからずっと一緒に生きて行きたい」 その言葉